ヒトの筋肉は常に緊張(硬さ)があり、西洋医学で使われる教科書に沿って説明します。
医学教育は、基礎医学である「生理学」「解剖学」から学び始めます。
生理学の教科書は、世界各国で最もスタンダードなのは、「ガイトン生理学(Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology)」 と「ギャノング生理学(Ganong’s Review of Medical Physiology)」 が2大巨頭と言っても過言ではく使用されていますので、「ガイトン生理学」に基づき解説します。
・筋緊張(筋トーヌス・Muscle tone)
筋肉は静止時もごく弱い筋収縮(緊張)を保ち、これを筋トーヌスといいます。脊髄からの低頻度の神経刺激と筋紡錘の働きにより、緊張は一定に保たれます。
・筋収縮のメカニズム
筋収縮は、運動神経からの活動電位が筋線維(筋細胞)に伝わり、アセチルコリンの分泌によるナトリウムイオンの流入で始まる。活動電位は筋小胞体からカルシウムイオンを放出し、アクチンとミオシンが滑走して収縮を引き起こす。その後、カルシウムイオンは筋小胞体に戻され、収縮は終了する。
・筋の構造と収縮
筋の構造は、アクチンとミオシンは筋フィラメントと呼ばれ、筋フィラメントを束ねているのが筋原線維。筋原線維を束ねているのが筋線維(筋細胞)。筋線維を束ねているのが筋線維束(筋束)。筋束を束ねているのが筋肉です。
したがって、筋肉は常に緊張(硬い)している場所は、筋線維(筋細胞)内となります。
◇大分類:筋緊張(Tone)の異常全般
筋緊張亢進(Hypertonia)
広義に「筋トーヌスが上昇している状態」の総称。
具体例として、痙縮(Spasticity)・強剛(Rigidity)・パラトニー(Paratonia)などが含まれる。
◇神経学的要因による「硬さ」の用語
神経学的病態 : 痙縮(Spasticity)、強剛(Rigidity)、ジストニア、ミオトニー、テタニー、痙攣(Spasm)など
物理的・構造的変化やその他 : 拘縮(Contracture)、線維化(Fibrosis)、瘢痕による短縮、スティッフパーソン症候群、筋硬結(Myogelosis)、トリガーポイント、Trismus(開口障害)など
筋は、常に弱い筋収縮(緊張)を保っており、その上で、神経刺激よる筋収縮と神経刺激以外の筋の硬さがあると考えるとわかりやすいでしょう。
A.病気(疾患)や病的状態によって生じる硬さ
B.疾患とは見なされない(いわゆる生理的・一過性・生活習慣由来など)硬さ
1.中枢神経(上位運動ニューロンなど)由来
①痙縮(Spasticity)
②強剛(Rigidity)
鉛管様強剛(Lead-pipe rigidity)
歯車様強剛(Cogwheel rigidity)
③パラトニー(Paratonia / Gegenhalten)
認知症や高齢者でみられる、他動運動に合わせて筋緊張が変動する現象。協力的にも抵抗的にも振れる。
④ジストニア(Dystonia)
⑤ミオトニー(Myotonia)
⑥痙攣のうち「強直発作(Tonic seizure)」
⑦スティッフパーソン症候群(Stiff-person syndrome)
⑧破傷風・重症脳炎などに伴う硬直(Opisthotonusなど)
2.末梢神経由来
①テタニー(Tetany)
②中毒性・薬剤性の筋硬直
3.筋自体・薬剤性・代謝性な
①Myofascial Pain Syndrome(筋筋膜性疼痛症候群)
トリガーポイントが形成され、局所的な筋硬結や痛みを生じる。慢性化すると病的とされる。
②拘縮(Contracture)
筋線維・腱・関節包などの組織が瘢痕化・線維化し、可動域が物理的に制限された状態。
長期不動や脳卒中後の麻痺、重度外傷後など、原因疾患や障害が明確にある場合に病的状態とみなされる。
1.一過性の筋痙攣(Cramp / Spasm)
急な運動負荷や脱水、軽度の電解質異常** などで生じる一時的・短時間の筋の過収縮。
一般的な「こむら返り」も多くは病気に分類されず、生活習慣や一時的要因が中心。
2.コリ・張り(Stiffness, Tension)
日常用語でいう「肩こり」「背中の張り」「腰のこわばり」など。
医学的に「疾患ではない」ケースが多いが、慢性化すると筋膜痛症候群との境界が曖昧な場合もある。
3.筋肉痛に伴う硬さ(DOMS: 遅発性筋肉痛)
激しい運動後や慣れない動作後に起こる筋肉のこわばり・痛み。
一般に炎症過程の一部であり、数日~1週間ほどで自然に改善するため、通常は病気扱いされない。
4.一時的な硬直・しびれ
長時間の正座や同一姿勢により血行が阻害され、一時的に筋がこわばる状態など。
体を動かすことなどで血流が戻るとすぐに改善するため、病的とはみなされない。
筋緊張(硬さは)には、神経刺激よる筋収縮(硬さ)である筋線維(筋細胞)の収縮と、筋線維外である間質(筋膜・結合組織)の2つがあります。
治療は、明らかに病的な神経刺激よる筋収縮(硬さ)であるか、それ以外かを判断する必要があります。
筋線維外である間質(筋膜・結合組織)による筋の硬さで困っている患者さんに対し、神経刺激よる筋収縮(硬さ)に対する治療が行われていることが多く、症状が治らない患者さんが数多くいます。
緩消法は、神経刺激よる筋収縮(硬さ)を解消するために開発された治療法ではなく、筋線維外である間質(筋膜・結合組織)部の弛緩を目的に開発されました。
そのため、本来の人間(哺乳類)の筋の軟らかさを取り戻すことができます。
※本来の筋の軟らかさとは、生まれたばかりの赤ちゃんや、リラックス状態のネコの筋肉を想像ください。
是非、緩消法を取り入れてください。
(出典:Guyton-Physiology-11th_edition P82 2006 : ガイトン生理学 原著第11版 P88 2010)
(出典:Guyton-Physiology-11th_edition P74 2006 : ガイトン生理学 原著第11版 P80-81 2010)
(出典:Guyton-Physiology-11th_edition P73 2006 : ガイトン生理学 原著第11版 P79 2010)